かわぐちろろのロロブログ
マンション管理とアレやコレ
マンション管理ノウハウ

【それやっちゃダメ!】マンション理事会でついついやりがち。役員の代理や委任の大きな誤解

エヴァンゲリオン綾波クローン

管理会社フロント

おや?役員さんの奥さん方。旦那さんは今日は欠席ですか?

役員さん

そうなのよ、ちょっと都合が悪いっていうんでね。
今日は代わりに私が理事会に出るわ

役員さん

私も旦那が仕事でね。代わりに出てって頼まれたの

管理会社フロント

そうですかぁ。お休みの役員さんが2名で、出られたのが理事長さんだけですね。
じゃあ、今日の理事会は『定数不足』で何も決められませんから、単なるお話し合いってことになりますねぇ

役員さん

えっ? 私は旦那の代わりに出てるのよ?
それなのに人数にカウントされないの?

役員さん

役員本人から任されたのに、何でダメなの?
私は旦那から「委任状」ももらってるけど、それでもダメなの?

管理会社フロント

ダメっスね。そういう決まりなんスよ。さーせん

マンションの理事会には基本的に、総会で決まった役員本人しか出られません。

しかしその役員さんは、プライベートの時間を割いて出席していますので、急な仕事の都合などで理事会に出られない場合がよくあり、その際、「自分の代わりに家族を出席させる」というケースが多くのマンションで見受けられます。

特に、現役世代バリバリに仕事をされている若い役員さんが「この日は仕事なので奥さんが代わりに出てもらう」というケースや、「年老いた父親の代わりに、その子供が出席する」といったケースが非常に多く見受けられます。

しかしこれ、

ホントはやっちゃいけない事

というのをご存知でしょうか?

「自分は役員の代わりだから」「ちゃんと本人に任せられたから」と言っても、法律的にそれは無効だということは、あまり知られていません。

今回の記事は、『理事会役員の代わりに出席することはいけないこと』の理由や、その対応策についてご紹介します。

この記事はこんな人にオススメ

この記事は、こんな方にオススメです。

  • これまで代理出席をずっと続けていたマンションの役員の方
  • それを何も考えず普通のことと考えていた管理会社の方
  • 理事会役員の出席要件を正しく理解できる
  • 正しい知識のもとに理事会運営を行うことができる

それでは、どうぞ!

『理事会役員の代理出席』の結論

簡単に結論をまとめると次のとおりです。

  • 理事会役員の代理や委任は無効
  • 役員本人から直接任せられたとしても無効。委任状があっても意味はない。
  • 役員業務を誰かに委任するには「区分所有者の全員承諾」「総会決議」が必要
  • 「代理出席役員」がまかり通った理事会はトラブルの元!
  • どうしても役員の代わりを立てなきゃいけないなら、管理規約を変更しよう!

それでは内容について、細かく見ていきましょう。

理事会役員の代理出席について

代理と委任とは

まず『代理』と『委任』について整理しましょう。

よく勘違いしやすい(というか誤解しやすい)のですが、『代理』と『委任』とでは似て非なるものです。

代理とは

1.代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2.前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

引用:民法第99条「代理行為の要件及び効果」/Wikibooks

委任とは

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

引用:民法第643条「委任」/Wikibooks

委任の関係

「自分の代わりに本を返しておいて」というと頼んだ俺くん。それを任されたジイさん。

この関係を「委任」と呼びます。

代理行為の関係

俺くんから「本を返しておいて」と頼まれたジイさん。

ジイさんは図書館に「俺くんの代理で本を返す」という行為を行います。

俺くんの代わりにジイさんから本を受け取った図書館は「俺くんから本を返してもらった」と認識します。

俺くんの代わりにジイさんが行った行為。それを受けて図書館は「俺くんガ返したことにする」という三角関係を『代理(行為)』といいます。

参考:【委任と代理】の違い、使い分け方は?

厳密にいえば違うけど、大方のイメージはこんなカンジでいいよ!

「誰かに何かをお願いすること・されること」を『委任』
「お願いされたことを代わりにする行為」のことを『代理』
って考えると、分かりやすいかもね!

理事会役員の立場

理事会役員は、区分所有法ではこのように定められています。

第二十五条(選任及び解任)
区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる。

第二十八条(委任の規定の準用)
この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

引用:建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)/e-GOV法令検索

※「管理者」=「マンション理事会の役員」と読み替えてOKです。

平たく言えば、理事会の役員は『区分所有者から「マンションの役員」として委任された人』と規定されています。

つまりマンションの役員は、区分所有者全員が行うべき「マンションの管理」というお仕事を任された(委任を受けた)人達というワケです。

委任のタブー「無断の再委任」

「委任=受任」の関係において、最も大切なのが『信頼関係』です。

信頼関係があってこそ、「自分の代わり」をお願いできるわけですから、信頼関係を壊すようなことはできません。

委任の関係

先ほどの俺くん・ジイさんの関係で例えると、こんなカンジですね。

新入社員の男性【委任者】俺くん
 俺のよく知ってるジーさんなら、安心して任せられるわ。
 《業務の委任》
喜ぶ老人【受任者】ジイさん
 孫の頼みならやってやるかのぉ。
 《業務の受任》

これは、委任者(本を返してほしい俺くん)が、『ジイさんだから信頼できる』と考えて本の返却を任せています。

では、受任者(本の返却を俺くんから任されたジイさん)が、勝手に他の誰かに任せたとしたらどうでしょう。

喜ぶ老人【受任者】ジイさん
 ちょっと時間ないし、ボクくんにお願いするかのぉ。
 (委任を受けた業務を他の誰かに再委任
新入社員【受任者】ボクくん
 本返すんスね! 了解でぃ~ス!
新入社員の男性【委任者】俺くん
 ちょ・・・ボクくんって誰だ!ふざけんじゃねぇよ!
 ちゃんと本返せんだろうな、返せなかったら俺が弁償すんだぞ!
 そんなの誰が良いって言ったんだ!?
 勝手に他の誰かに任せんじゃねえよ!

自分(俺くん)は、他でもないアナタ(ジイさん)に頼んだのに、それを断りもなく勝手に他の誰かに任されたとしたらどうでしょう?

例に出した本の返却だけなら「まぁ返してもらえるんなら良いか」となるかもしれません。

ですが、多額のお金が関わる事や人生に関わる重要事項などとなると、話は別です。

このように、委任関係(委任者と受任者間の委任契約)においては、

  • 委任された事は、勝手に誰かに任せる(再委任)することはできない
  • 他の誰かに再委任する際は、委任者からの承諾を得なければならない

というルールとなっています。

「この人だからできるだろう」と自分が信じて任せたことが、他の誰かに勝手に丸投げされた、なんて、たまったものじゃないよね。

考えてみれば当然のことよね!

理事会役員の代理・委任がなぜダメなのか

  • 俺くんは「本を返すこと」をジイさんに頼んだ。
  • ジイさんは俺くんの了解を得ないままボクくんに本の返却を任せた。

先ほど出したこの例を、マンションの理事会に置き替えて考えてみましょう。

新入社員の男性【委任者】マンションの区分所有者
 ジイさんに『マンションの役員』をお任せします。
 《総会での役員選任》
喜ぶ老人【受任者】役員に選任された区分所有者
 総会で役員に決まりました。

この時点で「区分所有者全員」から
「マンション管理の業務(役員業務)」を受任する委任契約が成立

喜ぶ老人【受任者】役員
 ちょっと時間ないし、ボクくんに『役員業務』をお願いするかのぉ。
 (委任を受けた業務を他の誰かに再委任
新入社員【受任者への再委任】役員から委任を受けた人
 了解でぃ~ス!
新入社員の男性【委任者】俺くん
 ちょ・・・ボクくんって誰だ!ふざけんじゃねぇよ!
 ちゃんと「役員業務」できんだろうな
 できなかったら俺が責任取ることになるんだぞ!
 そんなの誰が良いって言ったんだ!?
 勝手に他の誰かに任せんじゃねえよ!

―――っと、このような状況になります。

つまり、「本を返す人の勝手な交代」の事例と同じように、自分に任せられた業務(役員業務)を、受任者(役員)の独断で、委任者(マンションの区分所有者)が承諾していない人に任せること(再委任)は認められない」ということです。

もちろん『元の委任者(事例だと「俺くん」)の了解をもらえば再委任OK』となりますが、役員業務のを委任する委任者はマンション区分所有者になります。

ですので、役員業務を別の人に委任しようとすると、「区分所有者全員の承諾」「総会の決議」が必要となります。

区分所有法 第四十九条の三(理事の代理行為の委任)

理事は、規約または集会の決議によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。

区分所有法にはこのように規定されており、一見「あれ、役員業務の委任って、特に禁止されてないなら、誰かに委任していいってことじゃね?」と思いがちです。

しかし、ここで許可されているのは『特定の行為』だけであって、「役員業務全てを包括的に委任することまでは許可されてない」と解釈されています。

この解釈は、管理業務主任者やマンション管理士の試験でよく出題されるポイントだったりするよ!

たとえ本人からの委任状があったとしても、何の効果もないからね!

理事の委任はルール違反

決まりとはいえ、他に出られる人がいない―――。

こんなマンションが多いのではないでしょうか。

もし理事会の出席や役員業務を「役員に任命された本人」だけしかできないとすると、マンション居住者(組合員)の高齢化や、生活環境の変化などより、一層理事会への不参加・不成立が加速することになるでしょう。

「ルール(法律や規約)がダメとなってても、それじゃ現場はやってけない」

「マンション運営に支障をきたしたら元も子もない

だったら、ムリに本人でなくてもいいじゃないか」

そんな現実が目の前にあるから、現在多くのマンションで「理事の代理出席」が横行しているのだと思います。

しかしながら、決まりは決まり。いくら困った状況とは言え、それを覆すことは薦められません。

信義則やルール違反という以外にも、

あれ、この理事会って役員本人が出席してませんね?
だったらこの理事会、不成立じゃないですか?
不成立の中で行われた決議って無効じゃないですか?
決議無効なのに、何で勝手に話を進めちゃってるんですか?

それ、不法行為ですよね?

家族が代行したならいいじゃないか、ですって?
家族だったらマンションの金を使っていいってことですか?
そんなの総会で決まってました?
アナタが許しても、総会で許されてませんよね?

何の権限があって勝手にマンションの金使ってるんですか?
「今さら元に戻せない」ですって?
そんなんで言い訳認められると思ってるんですか?
居直りどろぼうですか?

責任とって下さいよ。
勝手に決めた人たちで。今すぐに!

―――っと、こんな メンドクサイ 細かいことを言ってくる人が出てこないとも限りません。

さすがにこんなことを面と向かって言ってくる人にお会いしたことはありません。

しかし、もし何かの案件で裁判沙汰になった場合、裁判所は必ず『法律に則った手続きが取られているか』ということを見に来ます。

もちろん「理事会は成立しているか」も確認されますし、もしその時「役員は代理だった。本人は出ずにその家族が出ていた」となると、更に面倒なことになりかねません。

現場の実態はともかく、法律や規約に沿った運用を心掛けましょう。

とはいえ誰かに役員を任せたい

役員さん

そうはいっても、うちのジイさんはもう歳だし、私しかできる人いないのよ・・・

役員さん

私も旦那も土日が仕事で出られないって。
代わりは私しかいないの

こんなマンション役員さんは日本全国大勢いることでしょう。

であれば、『役員業務を誰かに任せてもOK』というルールを作ればいいんです。

具体的には、管理規約をこのように変更すればOKです。

変更例その1『家族を役員に選任できるルール』

第35条(役員)

1.管理組合に次の役員を置く。(理事長、副理事長など…)
2.理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。

この規定を、このように修正します。

第35条(役員)

1.管理組合に次の役員を置く。(理事長、副理事長など…)
2.理事及び監事は、次に掲げる者のうちから、総会で選任する。
 一.組合員
 二.組合員の配偶者または一親等の成年の親族

このルールなら、配偶者や父母、子供に役員になってもらうことができます。

ただし、このルールは「総会で選任されるはずの役員を入れ替えるのをOKにする」というものですので、「いつもは自分が役員をしてるが、この日だけ代わってもらう」ということまでは認められません。

このルールだと、本人に代わって役員になった家族さんは、解任(次の総会)までずっと役員代行をし続けなければならないこととなります

さすがに1年もずっと代わりをするのは大変!
旦那が都合がつかないときだけ代わりができるようにしてほしいわ!

―――っという場合は、このような管理規約に変更しましょう。

変更例その2『都合がつかない時だけ役員を代われるルール』

第35条(役員)

1.管理組合に次の役員を置く。(理事長、副理事長など…)
2.理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。

この規定を、このように修正します。

第35条(役員)

1.管理組合に次の役員を置く。(理事長、副理事長など…)
2.理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
3.役員に選任された組合員は、その配偶者または一親等の成年の親族に、役員の職務を当該組合員に代わって行わせることができる。
4.役員に選任された組合員は、当該組合員に代わって職務を行った配偶者等の行為について責任を負わなければならない。

このルールなら、配偶者や父母、子供に自分の都合がつかない時に役員になってもらうことができます。

しかし、役員の代行は、本来なら認められない(『委任』の性質上好ましくない)ことです。

しかも、マンションのお金や権限を、選ばれた区分所有者以外の人に委ねることになりますので、むやみやたらに丸投げしていいものではありません。

ですので、

  • 委任できる相手を「家族」や「配偶者」など限定する。
    (赤の他人に任せてもOK、なルールにしない)
  • 委任された相手がやらかしても、本人が責任を負うことを明記する。

このような一定の『縛り』を加える必要があるでしょう。

のべつ幕なしに誰でも役員になれたら、何かあった時に大変だよ!

役員さんは、考えようによっては「ン千万のお金を抱えてるマンションを自由にできる立場」なんだから、「たかがマンションの役員」なんて思ってる人は要注意!

まとめ!

ここまでの内容をまとめてみましょう。

「理事会役員の代理や委任」についてまとめると次のとおりです。

  • 理事会役員の代理や委任は無効
  • 役員本人から直接任せられたとしても無効。委任状があっても意味はない。
  • 役員業務を誰かに委任するには「区分所有者の全員承諾」「総会決議」が必要
  • 「代理出席役員」がまかり通った理事会はトラブルの元!
  • どうしても役員の代わりを立てなきゃいけないなら、管理規約を変更しよう!

マンションの理事会決議は、総会での決議に次いで、マンションの運営を左右する非常に重要な位置づけです。

だからこそ役員は総会で決められ、その役員さんが責任を持って運営していくことが求められます。

しかし、その辺の認識が緩んでいるためか、「家族だから」「一緒に住んでいるから」という理由で、安易に代わりを遣わし、周りもそれを許している現状が多くみられます。

これは、言ってしまえば、何の権限もない人が、勝手にマンションの運営に口を出せ、金を使える立場になるということで、大変危険なことです。

もしご自身の理事会で「本人以外の人が理事会に来てる」という状況なら、改めて管理規約を見直して、必要あれば改正し、マンションの居住者・組合員の方の合意の下で運営することを強くお勧めします。

ではこのへんで。かわぐちろろでした。

かわぐちろろ の【ろろ余談】

かわぐちろろ

この件、過去、あまり思い出したくないトラブルがありました。
ビジネスヤ○ザはマジ勘弁です・・・。