前半記事では、マンション管理士が国から求められていた理想と、そのニーズに全くハマっていない悲しい実態をご紹介してきました。ざっとまとめると次のとおりです。
- 合格率が低い難関試験なのに稼げない
- マンション管理士で独立なんて無理(というか無謀)
- そもそもニーズがない
後半部分では
- 実は資格がない素人でも仕事ができちゃう
- マンション管理士の仕事は《管理組合の価値提供》でなく《管理会社への重箱の角つつき》になってるケースが多い
この辺の実情を中心に、「食っていけてるマンション管理士の実態」についてお伝えします。
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それでは、どうぞ!
マンション管理士の仕事の余地
前編部分の記事でもふれたとおり、マンション管理士は「マンション管理の専門家」という立場にありながら、マンション管理の業務である「建物・設備の保守管理」「会計」「法務」は、それ以上の専門家の方がより深堀したサービス提供ができます。
したがって、それぞれの分野においてマンション管理士の出番はなく、それ以外の「マンション運営」という分野で活路を見出すしかありません。
ですが、その分野は既にマンションが建った黎明期からマンション管理会社が全般的に業務を担っており、後続のマンション管理士がその間に割って入ることは、普通のやり方では不可能なのが実態です。
マンション運営に問題を抱えているところに営業をかけようにも、マンション内の運営事情は外部に漏れることがほぼ無いから、自力営業はまず不可能と考えていいだろうね。
マンション管理士が入っているマンションは、自治体や団体のセミナー経由で知り合って、相談を受けているうちに契約に結び付いたっていうケースや、テレビや雑誌で取り上げられたこともある大手事務所所属、知り合いのツテっていうケースが多いって聞くよ。
加えて、設備点検や修繕はともかく、実はマンション管理運営自体そこまで高い専門性がなく、ある程度勉強すれば、管理会社のフロントやマンション管理士でなくとも運営自体やれなくもできます。
ですので、専門家を雇うまでもなく素人でも見よう見まねでできてしまうというのが実態です。
かなり厳密にやろうとすれば、それなりに高い専門性が求められるけど、いつも専門家にお伺いしないとクリアできない業務はそんなにないから、素人でもできてしまうんだな。
マンション管理士の独占業務は?
弁護士なら「依頼者の代理人や法務案件の対応」
税理士なら「税務申告の代理や税務相談、税務書類の作成業務」
司法書士なら「不動産などの登記業務」
これらは【独占業務】と呼ばれ、その資格を持つ者にしか行うことが許されず、どんなに知識があっても資格持ち以外にはできない業務です。
不動産業務の独占業務を紹介すると
管理業務主任者は「マンション管理業務の事務報告や契約前の重要事項説明」
宅地建物取引士は「不動産売買・媒介・賃貸時の重要事項説明や書類交付」
などが挙げられます。
この独占業務、マンション管理士はというと全くありません
強いて言うなら
「マンション管理士以外が『マンション管理士』と名乗ってはいけない」というくらいで、マンション管理士でしかできない業務は全くありません。(しょぼい)
マンション管理士が活躍できる場面がすごく少ないのは、このせいだと言われているよ
実際の仕事内容
それでは、運よくマンション管理士の仕事にありつけられた人は、いったいどんな仕事をしているのかをご紹介しましょう。
管理会社のバッシング要員
まず最初に挙げるのが、マンション管理士のメインとなる《管理運営業務のコンサルタント》
やはりマンション管理士は「管理の専門家」というイメージがあるため、大半の人はマンション管理士が先陣を切って管理組合を導いている、という印象を持つ方が多いかもしれません。
ですが実際は、前述でもふれたとおり、管理組合の運営補助は管理会社が担っているので、殆どの場合マンション管理士に出番がまわってくることはありません。
ですが、あえてマンション管理士を入れているマンションがあります。
それはどういう場合かというと、殆どの場合
管理会社を解約させる(または管理委託費の大幅減額など、マンション側の言う事を聞かせる)ためのご意見番
という役目を負わせるため、マンションの理事側が外部から引っ張ってくるケースが多いです。
いくら会社組織で運営しているとはいえ、管理会社のほとんどのサービスはマンパワーに依存しているのが実態。
ですから、(本来あってはいけませんが)業務の漏れやミスは当然起こりえます。
マンション管理士はそれをダシに
この業務が出来てない!
高い金払ってるのに何をやっている!
業務不履行だ、金を返せ!
などと管理会社をバッシングして管理会社側の評価を下げることに注力します。
管理会社は、自分たちのミスを詰められているので反論できませんし、顧客である管理組合側が引っ張ってきた人ですから無下にもできない。
一方マンション管理士側は、管理組合側の要求を通しやすい土台を作り、自分は「マンションのためにやっている」という評価を得るという歪な構図が出来上がるわけです。
ミスを指摘される管理会社も悪いけど、それを論って相手の評価を落とすことで自分の評価につなげるやり方をする人は、「コンサルタント」と名乗ってほしくないね
やり方は人によるので、全てのマンション管理士がそうとは言わないけど、中にはホント汚い言葉でののしってきて人格批判をするような人もいたりするよ。
口は出すけど手は動かさない顧問役
ごくたまーにですが、本当にマンション管理のコンサルタントとして管理組合と顧問契約をしているマンション管理士がいます。
企業コンサルの場合、業務改善の内容をまとめた提案書を、パワーポイントやエクセルの一覧表、あるいは動画などにまとめて、クライアントである社長や経営陣にプレゼンし、随時案件を提案することが多いでしょう。
ですがマンション管理士のコンサルタントは
- 理事会に出席する。
- 議論の内容で質問が出されたら答える
- 法解釈やマンションの運営上の影響について意見する
などに終始し、自分で改善案などをまとめたり、資料を作ることはほとんどしてきませんし、それを求められれば管理会社に資料作りや事務作業を押し付けるというのがセオリーだったりします。
「こんな仕事で毎月顧問料取ってるの?」というケースもあるよ。
修繕工事関係のコンサルタント
大規模修繕工事や新築時の出来栄えをチェックする建築系コンサルタントの業務です。
修繕工事であれば、マンションの劣化診断、大規模修繕工事の進め方のアドバイス、修繕業者や見積内容のチェック、工事内容の進捗や観光後の出来栄えの確認。
新築時の出来栄えチェック(アフターメンテナンスのチェック)であれば、マンション全体の建物診断、不具合事項を見つけたらゼネコン(マンションを分譲した事業主)との折衝、修繕実施内容のチェック、修繕後の完了確認などがあげられます。
いずれも建築系のスキルがメインとなり、マンション管理士独自の能力は二の次として扱われているのが実情です。
むしろ最近はこれが主流になってきてるよ
ますますマンション管理士資格の必要性が問われるね
これまで色んなマンション管理士と関わってきたけど、純粋に「コンサル業務」として管理組合の顧問になっているマンション管理士は、ホント数えるほどしかいませんでしたね。
コンサルタント費用の相場
おおむね相場はこんなところです。
業務内容 | 相場 | 契約期間 |
---|---|---|
顧問契約 | 月5~7万円 | 年単位 |
組合業務見直し | 15~40万円 | 1~4ヶ月程 |
大規模修繕コンサル | 200~400万円 | 半年程 |
新築アフター精査 | 150~200万円 | 4ヶ月程 |
コンサルタント業務は、一般的に顧問契約の方が、継続性の面において良いように思われます。
しかし、(ほとんどの場合)必ず毎月(場合によってはそれ以上の頻度で)理事会や打ち合わせに駆り出され、日々Mailや電話応対もせねばならず、それでいて1件当たり1ヶ月あたり5~7万円では、あまり割に合うとは言えません。
対いて、大規模修繕コンサルタントや新築アフターメンテナンス補助業務については、限られた期間の割には報酬が高く、最近のマンション管理コンサルは、これら2点の業務に注力されているといわれています。
結局マンション管理士の資格を取るメリットは?
これまでの記事をご覧になった皆さんなら
マンション管理士の資格って、取る意味ってあるの?
と思われることでしょう。
そう、『マンション管理士』という資格自体、取るメリットはほぼ無いと言っていいでしょう。
では、毎年誰が、なぜ取るか。それは
「マンション管理会社のフロントが、自分の名刺に《マンション管理士の資格持ち》と載せて箔をつけるため」
これに尽きます。
毎年の合格率が7~8%とかなり低く、
「マンション管理士」という名前だけで見れば、マンションの専門家と分かり
それが管理会社の人間だったら、業務に信頼感が増す。
(名前だけでも)マンション管理業界の最上位資格ですから、取っている人間は、世間的にもそれなりに優秀な人間と見えるからです。
まとめ!
前半までの話をまとめると次のとおりです。
- 合格率が低い難関試験なのに稼げない
- マンション管理士で独立なんて無理(というか無謀)
- そもそもニーズがない
後半では
- 実は資格がない素人でも仕事ができちゃう
- マンション管理士の仕事は《管理組合の価値提供》でなく《管理会社への重箱の角つつき》になってるケースが多い
この辺の実情を中心にご紹介しました。
マンション管理の専門家として業界最上位の資格として名をはせているマンション管理士。
しかしその実態は、
- 入り込む隙間がない
- 入り込んでもマンション管理士だけでは仕事にならない
- コンサル業務としては程遠い実態
など、理想とはかけ離れた存在となり、受験者数も制度が始まった当初に比べ15%まで落ち、
今や単なる【マンション管理会社フロントの箔付け資格】に成り下がっている始末。
公益社団法人マンション管理センターが目指す
マンション管理士が必要な理由は?
マンションの管理を適正に行っていくためには、管理組合の運営、建物等の維持又は修繕等に関する専門的知識が必要となります。しかしながら、管理組合の構成員であるマンションの区分所有者等はこれらの専門的知識を十分に有していないことが多いことから、マンションの区分所有者等に対し、適正なアドバイスを行うことができる専門家が必要です。 マンション管理士制度は、平成13年8月に施行されたマンション管理適正化法において、国家資格として位置付けられています。
公益社団法人マンション管理センター より引用
この姿には程遠いのが現実です。
はたして、マンション管理士に明日はあるのでしょうか・・・。
ではこのへんで。かわぐちろろでした。
マンション管理士かわぐちろろ の【ろろ余談】
私の場合、自分のスキルを上げたくてマンション管理士の資格にチャレンジしました。
仕事の上では何一つ役に立ちませんでしたが、合格したときマンションの打ち上げで発表し、居住者の皆さんからお祝いされたのはいい思い出です。