マンション役員ってやりたくない
忙しくってそれどころじゃねぇ!
こんなふうに思っている方は多いのではないでしょうか。
断れないと思ってません?
いいえ、実は、
マンション役員は断れます。
今回はその根拠や注意点についてお伝えします。
はじめに
来期の新しい役員さんですね。よろしくおねがいしまーす
う~ん、マンションの役員なんてやったことないし。良く分からないわ
大丈夫っす、分からないことはボクたち管理会社がフォローするッス!
輪番でしょうがないからやるけど、できれば他の人にお願いしたいわ。辞めさせてもらうことってできないの?
いや~、それは勘弁してほしいッス。皆さんやってるんで。
(・・・なんかはぐらかされてない?)
マンションの所有者であれば、(大抵)必ず回ってくる『理事会の役員』のお仕事。
私はこれまで多くのマンションの理事会、役員さんとお付き合いしたことがありますが、たくさんの(本当に非常にたくさんの)方から
- 断れないか?
- 仕事が忙しくてやってられない
- 次に回してくれ
- 何も知らない自分がやってもしょうがないのでは
という声をもらいましたが、(申し訳ないのですが、立場上)「なんとかお願いします」と伝え、しぶしぶながら了承いただいたケースが数多くあります。
自分の資産であるマンションを自分で守る、という当たり前のことですが、だからといって「他の人で代わりが利くなら、自分がやらなくてもいいじゃん」と思ってしまいがちです。プライベートの時間をマンションのために費やすのは惜しい気がします。
でも、役員を断れば「アナタだけ楽してる」「みんなやっているんだから、アナタだけ例外は認められない」などと言われ、事実上断るのはムリでしょう。
よし! じゃあ理事会も何もかもサボればいいじゃん!
と思うものなら、他の役員さんから白い目で見られてしまう。
だから「みんなやってるから」「輪番だからしょうがない」と言われないためにも、しぶしぶ請けている方も多いのではないでしょうか。
でも、考えてみてください。
『役員を断れない理由』って、考えたことはありますか?
「他の人もやってるから」「順番だから」「隣近所から嫌な顔されないためだから」と、精神論としての理由づけはよく聞きます。
ですが、実際「本当に役員を断ることはできないのか」という明確な根拠まで考え、きちんと理由まで把握している人は少ないのではないでしょうか。
今回の記事は、10年以上管理業界に身を置いてきたリアルな現場の状況と、マンション管理士としての法律的な解釈についてご紹介したいと思います。
『役員って断れないの?』の結論
簡単に結論をまとめると、
このようになります。
それでは内容について、細かく見ていきましょう。
この記事はこんな人にオススメ
この記事は
- 役員が嫌で仕方なく断りたいと思ってるマンション理事会の新任役員の方
- 逆に「役員を断りたい、辞めたい」と言ってきたマンション理事会の役員の方々
- 理事会から「次の役員に声掛けといて」と頼まれた管理会社の新人フロント社員の方
- 次期役員の人から「役員断れない?」と言われた管理会社のフロント社員の方
こんな方にオススメです。
「次期役員になってくれ」とお話しして、大抵の方は「あまりやりたくない」という方で、喜んで受ける方は非常にレアではないでしょうか。
そんな中、単に精神論や「決まりだから」という慣習を押し付けても納得感は得られませんし、役員を薦める側も薦められる側も、基礎となる制度をちゃんと理解した上で議論をしないと、建設的な話ができないのではないでしょうか。
そもそも「なぜ役員を断るのはダメなのか」その理由や根拠を理解することで、問題の本質に触れられるのではないかと思います。
知っておきたい基本的なルール
一般的な役員の就任ルールや、「役員を断ること」「途中から辞めること」について、詳しく解説します。
それぞれの役員の特徴や、役員になった後のことについては、別記事に詳しくご紹介してますのでコチラをどうぞ。
なぜ役員なんてしないといけないの?
一言でいえば、「マンション所有者だから」です。
マンションの管理規約には
第35条(役員)第2項
引用:『マンション標準管理規約(単棟型)』より
理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
というふうに記されており、組合員(マンションの区分所有者)であれば、誰でも役員になることが課せられています。
これをベースに、合体コンボで
- 『役員は1年毎に順番で全組合員を対象に持ち回りとする』
というルールが殆どのマンションで追加されており、結果として「マンション所有者全員が持ち回りで役員になってね」というルールとなっているわけです。
10年以上前のマンション標準管理規約では、役員対象者は「マンション所有者の全員」じゃなくて「マンションに住んでいる所有者のみ(マンションに住んでない所有者は除外)」としてて、古いマンションでは今もそのルールを続けてるケースがあるよ!
国は当時「マンションの運営は、実際に住んでる人が一番詳しいから、役員も実際に住んでる人が良い」と考えてこのルールにしたそうだけど、最近になって「マンション所有者が必ずしも実際に自分が所有するマンションに住んでいるわけじゃない(賃貸化の増加)、少子高齢化で役員の成り手不足の傾向にある」というケースが多くなった事を受けて、標準ルールを変えたみたいね。
いつまでやらなきゃいけないの?
役員の任期については管理規約に明記されています。
第36条(役員の任期)
引用:『マンション標準管理規約(単棟型)』より
役員の任期は○年とする。ただし、再任は妨げない。
マンション標準管理規約ではこのように規定されています。
「任期○年」と表記されてますが、大体のマンションには「2年」と設定されているのが多い印象です。
なぜ「任期2年」が多いかというと、
- 任期1年:毎年役員が全員入れ替わり、過去の引継がうまくいかない
- 任期2年:半数改選することで、過去の引継もでき、人員の入替えもできる
- 任期3年以上:長すぎ
こんな理由です。
『ただし再任は妨げない』という規定は、「引き続き役員したい!」というやる気がある人はWelcomeだよ!っていう規定だね。
「やる気があるのに『任期の規定』が邪魔して続けられない」というのは、管理組合としてももったいないしね。
でも、あまりにも特定の人がず~~~っと続けるのは、ワンマン運営になりがちで不正が起きやすいから注意が必要ね!
マンションの理事会役員って断れるの?
おそらく、多くの方がこの部分を知りたいと思っていると思います。
みんなやってるんだ、そんなこと許されるかッ!
そんなことして大丈夫なの? 他の人から何か言われない?
と思われる方が多いでしょう。
ですが結論からいえば
マンションの理事会役員は「断れます」
管理規約などの規定の上では「断れる」と解釈できるんです。
理由1:法律上「委任」であるから
役員にならなきゃならない理由は、前述「なんで役員にならなきゃいけないの?」のとおり、
「アナタがマンション所有者で、役員の順番が回ってきたから」
です。
ですが、そもそもマンションの役員というものは
第二十八条(委任の規定の準用)
引用:『区分所有法 第四節 管理者』より
この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。
この規定のもとに選ばれています。
ここで挙げられた『委任』についてですが
- 『委託者』は『受託者』に、お互いの了承の上で業務を任せる
- 『受託者』は、任された業務を原則無償で行う(※特別ルール付加は可)
- 『受託者』は、任せられた業務を、受託者の判断でいつでも辞めることができる
- 『受託者』は『委託者』に、自分が行った業務を報告しないといけない
このような特徴があります。
『委託者』=管理組合/『受託者』=次の役員/『業務』=役員
このように読み替えると、
- 『管理組合』は『次の役員』に、お互いの了承の上で役員を任せる
- 『次の役員』は、役員は原則無償で行う(※特別ルール付加は可)
- 『次の役員』は、役員を、自分の判断でいつでも辞めることができる
- 『次の役員』は『管理組合』に、役員業務の内容を報告しないといけない
このようになります。
つまり、『役員』は法律(民法)上『委任』の規定で成り立っている以上、
役員就任が「本人の了承があることが前提」であるうえ、「自分の判断」で「いつでも辞めることができる」と解釈できるんです。
理由2:「断ってはいけない」とは決められていない
管理規約や区分所有法では、
- 組合員が集会の決議により役員になれる。
と「役員になることができる条件」については書いていますが、
- 必ず役員に就任しなければならない。
- 役員就任を拒否することはできない。
というような、役員就任が「義務である」というふうには書かれていません。
前述『なぜ役員をしないといけないの?』で書いたとおり、輪番制による役員選任そのものが、一種の義務の付与のようにも解釈できますが、
- そもそも役員就任の前提が法律上「委任」であること
- 区分所有法上「規約や集会決議による別段の定め」を許していないため、役員就任そのものを管理規約や総会決議で新たに義務化することは困難と解釈されること
ということから、「断るルールを新たに付けること」自体が難しいと解釈できるからです。
マンション役員は途中交代できないの?
役員になった後、途中で役員を辞められるか。
回答としては、『途中でも辞められます』
理由としては、前述『理由1:法律上「委任」であるから』のとおり
- 『管理組合』は『次の役員』に、お互いの了承の上で役員を任せる
- 『次の役員』は、役員は原則無償で行う(※特別ルール付加は可)
- 『次の役員』は、役員を、自分の判断でいつでも辞めることができる
- 『次の役員』は『管理組合』に、役員業務の内容を報告しないといけない
このようになりますので、ご自身が了承していないのであれば、ご自身の判断でいつでも辞めることができると解釈できます。
なぜ役員拒否が嫌がられるのか
ここまで役員就任を断る、途中で辞任できる根拠について述べてきました。
それでは逆に、『なぜ役員を断ろうとしたら嫌がられるのか』を考えてみましょう。
それらは概ねこのような理由です。
- 他のみんなもやっているから
- 役員が欠けると、他に補充をしなくてはならなくなり、以前に決めた輪番がくるってしまうから
- 補充された人の任期は辞めた人の残期間になり、他の人と不公平になるから
- 前例を作ると、後で「やめたい」「やりたくない」と言ってきた人を断り辛くなるから
このように、殆どが『感情論』で、理屈を立てて「役員は断れない」「辞めるのはダメ」とは言えない状況です。
ですが、これらはあくまで『規定の上』でのお話で、感情の上ではどうしても納得できないのが人のサガです。
役員なんてやりません。理由はやりたくないからです。
義務じゃないんでしょ? だったらやりませんよ
なんて言われた日には、言われた方は正気を保ってられないでしょう。
権利だけ主張して義務を放棄するとは何事だ!
と、(言葉の定義はさておいて)こんなふうに言われること請け合いです。
決まりの上では認められていても、周りあってのマンション生活です。
皆がやっていることを、自分だけ逃れるのは、さすがに理解は得られないでしょうし、人づきあいの観点から、今後の生活にも支障を来す恐れがあります。
「やりたくない」という気持ちは他の方と一緒です。
もし、どうしても役員を断りたい、辞めたいと思うときは、ちゃんと理事会の役員にそのことを説明し、双方納得した上で断るようにしましょう。
まとめ!
「役員を辞められるか?」について言えば
- 管理規約や法律上の解釈では、役員を断ることもできる
- 途中で辞めることもできる
- ただ、感情論で納得が得られない恐れが高い
このような結論になります。
これは私の個人的な考えですが、
確かに『規定の上では』理事会役員を断ることはできますが、マンションというものは、一つの建物にみんなで一緒に住んでいる『共同住宅』であるうえに、みんなの共同の財産である『共有資産』です。
それを、「自分は面倒を見る気はないから、面倒見役はやりません」と言って人任せにしてよいのでしょうか。
共有である以上、自分も所有者・居住者なのですから、自分ごととして自分の財産をいかに長持ちさせ、より有効に使うことを一緒に考えていただきたいと私は考えています。
ですが、単に「やりたくない」「面倒くさい」という理由でなく、已むに已まれぬ事情がある場合もあることでしょう。
その際は、理事会の役員さんに事情を説明しよく話し合えば、旨い打開策を得られるのではないでしょうか。
理事会の役員さんも、同じ人間。事情を話せば分かってくれるよ
でも「やりたくないから~」てのは、単なるサボりと一緒だから、みんなに納得してもらえるような理由がないとダメだよね。
ではこのへんで。かわぐちろろでした。
マンション管理士かわぐちろろ の【ろろ余談】
この記事は、あくまで「規定ではこう解釈できる」ということをご紹介しているだけであって、率先して「役員なんて断ろう」と言っているわけではありません。
役員を請けてくれと薦める側も、薦められる側も、単にこれまでの慣習や精神論を押し付けあうでなく、管理規約などのルールをちゃんと理解した上で、マンションのために自分はどうあるべきかを話し合うことが一番大切だと思っています。
この記事がその一助になれば幸いです。